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2000年ノベンバー会議報告(ORC技術・計測関係)
2001/1/12
2000年ノベンバー会議報告(ORC技術・計測関係)
高橋太郎
今年の会議はスコットランドのエジンバラで行われました。20世紀最後の会議であり、かつ、ISAFと統合される予定のORCとして開催される最後の会議でした。一方、一年早く合体した日本ではJSAF外洋としての最初の出席です。私はアメリカズカップにかまけてORC会議を随分お休みしていましたが、今年、矢嶋さんがORCクラブ導入プロジェクトの準備でお忙しいとのことで久しぶりに出席しました。
私の担当はITC(国際技術委員会)の傍聴と計測委員会への出席です。
ITC
ITCの会議は 11月3日、4日、5日の3日間行われました。
ITCは9月22日から24日にかけてアメリカのニューポートで会議を持ちサブミッションの検討と2001年に向けての改正について検討しています。10月にはベータバージョン(仮発行)の2001年向けIMS用VPPも発行されています。そのぶんだけ11月会議での進行は私が以前出席していた頃と比べるとスマートで余裕が感じられました。(実は私が浦島太郎なのかもしれませんが、、)
ORCチェアマン、Hans Zuiderbaan、の報告
来年からORCはISAFのOffshoreRacingCommitteeとなり、今までのORCの活動のほとんどに加え、その他の外洋関係の活動も含めたコミッティーとなること。今までのORCのコミッティーは新しいコミッティーの下でサブコミッティーとして同様の活動をする。
ORCのチーフメジャラーのNicolaSironi(イタリア)がイギリスのサザンプトンオフィスでIMSの仕事に加え、ISAFでの活動を補佐する仕事につくことになった。
レース運営プログラムがオランダで改良作業が続けられている。
ORCクラブシステムがORCの主力ハンディキャップで艇数、参加国が増えている。
ISAFの宣伝規定が承認され、ORCはその管理下のイベントに適用する予定である。
チーフメジャラー、NicolaSironi、の報告
9月のITCで提案された新しいVPPを試験的に使用したレースでは非対称スピンをセンターラインにタックを取った艇の有利さは以前より大きくないように修正されている。
ベータ版VPPの見直し
10月に約45のデザイナーと数カ国のレーティングオフィスに発送されたベータ版VPPには意見は寄せられておらず、大きな問題なく受け入れられたと考えられる。
1.タックをセンターラインにとった非対称スピンの性能
新しいミッドガース(SMG)を使った面積計算式と風洞テスト結果より導き出した新しい性能係数を使ったベータ版VPPが承認された。
2.ジブのオーバーラップの違いによるハンディキャップの不整合の修正
同型艇でジブのオーバーラップのみが異なる場合、強風においては全く同じセールを使用するにもかかわらずVPPの予測値が異なっていた。これは風圧中心高さの式に問題があった。
ベータ版VPPでほぼ修正されており2001年はこの式でいくことになった。
オリン・スティーブンスがルールが複雑になることに疑問を述べた。議長、ペドリック、は多くのタイプをフェア―にハンディキャップできているメリットを述べた。
3.ダイナミックアローアンス
新しい高性能のクルーザー・レーサーディビジョン艇が得るアローアンスを抑える為に、艇の特徴から高性能艇に対してはアローアンスを少なく、性能の低い艇にはアローアンスを多くする式を導入した。
4.ジャイレイディアス(慣動半径)
クルーザー・レーサーディビジョン艇や前部居室に対するボーナスが最近の攻撃的なC/R艇で悪用されている点が指摘されている。これらも艇の特徴をもとに調整される式となった。
VPPテストラン
2000年から2001年に向けてのVPPの変更はすべてを算入してもGPHで+2秒から−1秒弱と小さい修正になっている。このほとんどは DAと慣動半径によるものである。
セールの材質制限
カーボンセールが認められた。ケブラーセールとほぼ同程度のコスト/寿命でIMSで認められているPBOよりずっとコストパフォーマンスが高いとのこと。
室内高要求
アメリカから全長12m以下のスポーツボートがIMSでレースできるように要求を下げてほしいと提案があった。スポーツボートディビジョンを別途作る案は複雑になるので却下され、レーシングディビジョンの室内高要求を約12cm低くすることになった。
既存艇でこの新しいリミットに不合格の艇は2%又は3cmの範囲で特別に合格と出来る。
IMSクラスリミット
ILCはIORのレベルレーティング(1Ton,2Ton etc)の代わりとして登場したが、レーティング調整が難しく今ひとつ盛り上がっていない。IMSクラスはある程度リミット(範囲)を広くして、その中でハンディキャップレースをしている。今年はIMS50が成功をおさめた。今回の会議で以下のクラスが制定された。
IMS50クラス 最低 最高 GPH s/m 522 532 ILC s/m 584 594 LOA m 14.5 15.5 IMS40クラス 最低 最高 GPH s/m 595 615 ILC s/m 670 690 LOA m 10.9 12.5 IMS L m 9.8 11.0 IMS30クラス 最低 最高 GPH s/m 625 645 ILC s/m 700 725 LOA m 9.0 10.0 IMS L m 8.1 9.1 Mini−Maxiクラス 最低 最高 ILC s/m 500 550 Maxiクラス 最低 最高 ILC s/m 470 500 LOA m 20.0
その他のサブミッション
以下のサブミッションについては来年継続して検討を加えていくことになった。
標準より小さ目のスピンネ−カーのハンディキャップ
ラダ−の深さの影響。ツインラダ−についてはその後に。
簡単なリギンが性能に及ぼす影響の把握。
バウ付近の計測ステーションの間隔。LPPの不自然な計算結果の検討。
軽風時の腰の軽い艇の有利さの把握。
ジブとスピンの境目の風向におけるセールの性能。
スタビリティー
ISOスタビリティー標準
ISOの標準は最終版ではないがほぼまとまっており、そこから判断すると、全長12m以上のIMS艇は合格するが、12m以下の艇は合格するのが難しい恐れがある。この傾向はボートメーカーの安全に対する懸念で意図的に作られているとの話もある。
1998年シドニーホバートレースの調査
1998年のシドニーホバートレースの正式報告書はまだ発表されていないので正式な検討はできないが、伝え聞く話ではすでに多くの改善提案は実行に移されているとの事。ITCが注目しているスタビリティー要求とIMSの関係については現在のIMSの規則を変更することにはならない模様。オーストラリア造船大学のRenilson教授がスタビリティーの検討と造波水槽における模型復元実験について発表した。転覆した状態からの復原しやすさに注目した研究は興味ある研究であったが一方、ドッグハウスの有無が静的復元力計算では大きな影響を与えるのに対し、実験では逆の結果も出たこと、マストが着いている(折れていない)方が倒立状態から復元しやすいなど、今までの常識と違う傾向も示しており興味深い。この結果は2001年1月のチェサピークシンポジウムで発表される。
構造ルール
ORCではABS(アメリカ船級協会)と協力して外洋艇の構造ルールを持っていたがABSが小型艇向けのサービスを停止している。一方、ISOがプレジャー艇の構造標準を作成している。これらを比較計算するプログラムを開発している。
IMSプログラム
IMSプログラムは会議終了後に最終チェック版が完成予定でタイムリーな配布が行われるものと期待される。プログラムは順次ウインドウズ環境に移行されており2001年中にはプログラム全体がウインドウズ環境に移植される予定。新任プログラマーが全体を見ているので全容がわかりやすくなってきている。LPPとVPPに関するドキュメントの整備もITCの作業予定に入っている。
VPPの水力学モデルの改良研究
1.デルフト大学でよりIMSタイプのバウシェイプのモデルのタンクテストを行った。
2.キール付き、とキール無しのモデルを使用してヒールによる抵抗の変化を探るタンクテストがデルフト大学で行われた。
3.ラダ−の深さの影響がマリンダイナミック研究所でテストされた。
4.喫水線の前、後端の断面間隔を密にしたデータで模型のLPPを再計算し、現行の数学モデルを改良した。
5.前後のオーバーハングの影響を捕らえる方法の改良を検討する。
6.一部の係数に造波抵抗モデルが過敏に反応する現行の数学モデルの欠点の改良。
7.波浪中抵抗増加について算定式の改善方法を探ることを将来の計画に盛り込む。
8.2001年中に最大9個のモデルが、デルフト、マリンダイナミックス、アテネ大学で予定されている。
9.CFD(計算流体力学)によるアペンデージ性能把握の可能性を検討する予算が1998年に認められていたが時間の関係で進んでいない。予算が許せば2001に検討を進めたい。
VPPの空力学モデルの改良検討
1.現在のVPPに使用されている空力モデルの見直しが進められた。今回、空力中心の扱いを修正した。
2.簡単なリグの空力性能の見直し。
3.最近の風洞テストによるヒール時の空力性能がVPPに使用されているモデルと異なっている。さらに検討を加えてVPPのモデルを改良する。
4.ジェノアとスピンの境目の風向におけるセール係数の改良。
5.基準サイズより小さいスピンネーカの性能把握。
6.現在の空力学モデルはコンピュータ能力が小さかったときに開発されたものである。現在のコンピュータ能力に合わせたより複雑で精密なモデルの可能性を検討する。
計測委員会
計測委員会は 11月6日、7日の2日間行われました。
私は計測委員会の委員になっていますが何年もサボっていましたので新しい顔も多く、少し緊張しています。残りの半数は古顔ですのでこちらからは懐かしく歓迎されました。
会議の内容は
非対称スピンネ−カー
SMW(最大幅)ではなくSMG(ラフとリーチの中点間距離)を計測することを再確認。
タックペナント(ロープ)の長さは最大0.762m(2.5ft)に制限された。展開、収納、ジャイブ時以外は操作不可。ハリヤードは常時調節可能。
バウパルピットと干渉して有利な展開になるようなセッティングがRRS50.3違反(アウトリガー)となる可能性が指摘された。
傾斜テスト
昨年決定された水管傾斜計を使用して最大傾斜を4回計測する方法はうまく行っている事が確認された。
電子式傾斜計は古くなってきている。第二世代のもの(日本では使っていない)はトラブルが有った。 新しいモデルのプロトタイプは出来ているがシステムとして確認、承認されていない。
船体計測機械
現存のドイツとアメリカのモデルは整備サービスは続けられているが新規に製作するには色々工夫が必要で簡単ではない模様。
レーザーや写真解析などの新技術を利用した方法がテストされている。可能性は有るが現時点ではコストがかかりすぎる。
船体計測ステーション
喫水線前端を正確に把握する為、船の前端からLOAの15%間は間隔を2.5%LOA以下とすることになった。
ERS(Equipment Rules of Sailing)
ISAFのERSについてISAFの委員から説明があったが、IMSとの関連をチェックする時間的余裕が無く来年11月まで検討を延期するように要請することとした。
イベントメジャメント
50ftクラスから推奨された。有用な場合も認められるが一般に広く推奨することは無理。
イベントメジャラーによる計測には開催地の計測委員も参加させることとした。
ヘッドルーム
レーシングクラスのヘッドルームが緩和されたがバルクヘッド位置のチェックは必要。
再計測手順など
国境を越えて再計測を再三繰り返すオーナーや、計測結果に疑問を持ち再計測を要求する例がある。レーティングオフィス間の連絡を密にして個々に対応することとなった。
ORCクラブ
ORCクラブについてはITC、メジャメントコミッティーの両方で議論されています。世界的にも受け入れられてきており、日本でも来年導入されるORCクラブ関連をまとめます。
発行証書数は一昨年の2700から昨年は3300と順調に増えてきている。
ORCクラブに関する文書(ルールブック)
現在、最終案の見直し中で11月末にはファイルの形で配布できる予定。
ハルオフセット生成プログラム
新バージョンがドイツでのみ使用されている。近々配布される予定。
データファイル
現在ある計測データをまとめたディスクを準備中で近々配布される予定。
船体計測法
簡略化した船体計測法(写真測量を応用)をテストした。精度、煩雑さ、コストのバランスに改善必要だが可能性は有り、継続して検討する。
レーティングオフィス向けマニュアル
2001年に改訂版を作成する予定。
ORCクラブ証書のフォーマット
ORCクラブが本格的に導入されるにつれて証書の改良提案が多数寄せられた。
コメントスペースを新設する。
メインセールの寸法を記入する。
プロペラ形式の入力に"クラブPIPA"を追加。
その他確認
*長距離レースに参加する場合のスタビリティーチェックは正式の計測を行うか、デザイナーの確認による。
* IMSと同様に重量物のボーナス(附則9)は適用する。
* IMSレギュレーションを適用する。
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