● ジュニアアカデミー委員会 

後藤コーチの講義



ヨットレースの基本中の基本

 ぼくはOP級の世界選手権派遣チームのコーチですが、今日OPのコース練習でビリになりました。だから、みんなは「コーチに勝ったんだ!」といって、もっと胸を張っていいよ(笑)。
  ヨットレースというのは1番になればうれしいし、後ろを走れば悔しい。だから、うれしいときはもっと喜んだらいい。OP級の世界選手権ではある決まりがあって、優勝したセーラーはフィニッシュラインの近くで船をオカマにしてその上に座り、自分の国の旗を持って「やった!!」って叫ぶんだ。こんな風に、勝つことの楽しみというのをもっと率直に出していいと思いました。

Photo:Ken Toyosaki
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レクチャーする後藤コーチ(右)とジュニアセーラーたち

 さて、レースであるかどうかにかかわらず、ヨットを速く走らせるのに大切なことが3つあります。
  それは、(1)セールトリム(2)バランス(3)ティラー・ハンドリング、の3つです。
  OP級のようなシンプルな船はこの3つだけで走っているようなものです。だから、この3つを正しく行えば船は速く走るのです。
  ハイクアウトするのはバランスをとることだし、テルテールをきれいに流すというのはセールトリムとティーラー・ハンドリングを正しくすることにつながります。この3つがヨットを速く走らせる基本中の基本です。
  そんなこと分かってるよ、もうできてるよ、と思っているかもしれませんが、スピードで負けるということはこの3つが正しくできていないということなんです。速い選手はこの3つが高いレベルでできているから、前を走れるんです。
 
  次はレースに関してです。
  レースになると、今度は違った技術が必要になってきます。
  レースに勝つためのポイントは次のようなものがあります。
(1)スタート
  正しい時間に出られるか、狙った位置から出られるか、最速のスピードで出られるかなど
(2)コース取り
  右海面に行くか、左海面に行くかで大きく変わってくる
(3)マーク回航
  水を空けずにきれいに回れるか、タックやジャイブで船を止めないなど

 しかし、この3つ以外に大切なことがあります。ヨットに乗るための基本中の基本です。それは、
(1)体力
  これがないとヨットには乗れません。体力はいくらあってもいい、あって困ることはない
(2)ルール
  ヨットのルールだけではなく、ハーバーやクラブのルールなども守らねばいけない。ルールを知らないと、ルールの範囲で攻めることもできない
(3)道具
  ヨットは道具を使うスポーツです。腕が同じなら道具の優劣で勝敗が分かれる場合がある。これはお金をかけるという意味ではなく、常にチェックし、壊れたりしないように道具を整備すること

 ここで気づいてほしいことは、体力、ルール、道具に関することは、海に出なくてもできることなのです。
  みなさんがヨットに乗るのは週に1回だけだと思いますが、逆に言えばヨットに乗れない日が週に6日あることになります。その6日の使い方でヨットがうまくなるかどうかが変わってきます。
  船を整備したり、ジョギングして体力をつけたり、ルールの勉強をしたりするのは、ヨットに乗らなくてもできることです。体力、ルール、道具に関する部分を高めておけば、レースの成績にもつながってきます。
  たとえば、体力がなければハイクアウトはできないし、船がトラぶってはセールトリムなんかできなし、ルールを知らなくて失格になったらスピードどころではない。みんなが考えている以上に体力、ルール、道具に関することは大切なのです。きちんとした土台があってこそのヨットレースです。だから、週に1日しかヨットに乗れないと考えるのではなく、この土台をしっかりさせる時間が週に6日もあると考えて、時間を有効に使ってください。
  ヨットレースというのはとても変わった競技だと思います。
  というのも風速と海のコンディションによって、同じレースでもまったく異なった展開になるからです。
  たとえば、陸上の100m競争。これは日によって100mの距離が、105mになったり110mになったりすることはありません。しかし、ヨットレースの場合、風が強いとマークとマークとの間の距離が長くなるし、風が強いと体力勝負になり、風が弱いと頭の勝負になったりと様子がガラリと変わってきます。水泳競技でプールの水が熱くて入れないなんてことは絶対にないけれど(笑)、ヨットレースはそれほど天候やコンディションによって変わってくる競技なのです。周囲の環境の変化にうまく合わせられるなければ勝てないのがヨットレースなのです。風が落ちた、上がった、振れた、波が高い、潮が強いなどにうまく合わせていかなければいけないスポーツなのです。ここがヨットレースの面白いところなので、学校にいるときも風の変化に注意したりすれば、ヨットに乗らない間にもヨットはうまくなれるスポーツなのです。