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第34回アメリカズカップ・ニュース 2011年9月
次号会報誌『J-Sailing』に掲載予定の、第34回アメリカズカップについての最新情報レポートに先がけて、そのダイジェストをここに掲載します。
【第34回アメリカズカップの展望】
2009年7月に第32回アメリカズカップが終了した後、第33回アメリカズカップの挑戦者代表ヨットクラブの資格の有無をめぐる議論をキッカケにした様々な紆余曲折を経て、次回第34回アメリカズカップは再来年の2013年7月〜9月に、米国サンフランシスコ湾で開催されることになりました。
第34回アメリカズカップに使われる艇は、全長72フィートのAC72クラスと呼ばれるカタマラン艇です。AC72クラスはキールボートではありません。鉛をぶら下げたキールではなく、カーボン製のダガーボード(モノハル艇で言えばセンターボード)を備えた、超大型のカタマラン・ディンギーだと表現するほうが正確です。
船体長21メートル強、全長30メートルもの大型艇だとはいえ、ディンギーですから、操船ミスをすれば簡単に転覆します。再帆走も可能ですが、転覆したレースは負けることになるでしょう。裁判所の判断によってモノハル対カタマランで強行された第27回大会を別にすれば、第32回アメリカズカップまで150年以上続いたモノハルのキールボートによるアメリカズカップの歴史は終わりを告げることになりそうです。
歴史の早い時期、葉巻を口にくわえた老獪な艇長が悠然と舵輪を操っていたアメリカズカップ艇は、これからは風圧抵抗を最小限に抑えるウエアに身を固め、直感的なセーリング感覚に優れた、屈強でしかも素早い身のこなしを身上とする若いアスリート・セーラーたちでしか走らせられない、非常にスポーティーな艇へと大きく変化することになったのです。
AC72クラスは、微〜軽風では風速の3倍以上のスピードで走ることが可能で、サンフランシスコ湾のような強風のエリアでは45ノットを越えるスピードでレースをする超高速ヨットです。口にくわえた葉巻など、出艇したとたんに風に飛ばされるかスプレーでびしょぬれになってしまうことでしょう。
【アメリカズカップ・ワールドシリーズ2011 第2戦プリマス大会】
AC72クラスで行なわれる2013年の本予選(ルイヴィトンカップ)と本戦(アメリカズカップ)を前に、現在はAC72クラスの約半分の大きさのイメージのAC45クラスという名のワンデザイン・カタマランを使って世界を転戦するワールドシリーズ2011が開催されています。
JSAFアメリカズカップ委員会(植松 眞 委員長)では、ワールドシリーズ2011第2戦のイギリス・プリマス大会(9月10日〜18日)への招待状が第34回アメリカズカップの運営全体を統括するアメリカズカップ・イベント・オーソリティー社から届いたことを受けて、その大会時期にたまたまフランス滞在中だった委員の一人(筆者)をイギリスに派遣しました。
新しくなったアメリカズカップの空気を現地で感じ取ってそれを日本のセーラーの皆さんに伝えること、アメリカズカップ・イベントオーソリティーの代表者に会ってアメリカズカップ・ワールドシリーズの詳細情報を聞き出すこと、そして日本からのワールドシリーズ参加の可能性を探ること。この3つが植松委員長から託された任務でした。
【アメリカズカップ・ワールドシリーズ2011を観て】
レースの模様は、アメリカズカップのオフィシャルサイト内の動画で紹介されています(http://www.americascup.com/)のでそれを観ていただきたいのですが、現地で実際にレース使用艇(AC45クラス)やレースを実際に目の当たりにするとさらに、これまでのアメリカズカップとは、まったくの別物の競技だという印象を強く受けます。
さらに言えば、ディンギーであれキールボートであれ、普通のセーラーがイメージするこれまでのどのヨットレースとも異なる、まったく新しい水上競技のように見える、と報告すべきかもしれません。
これまでのアメリカズカップ艇やそれらの艇が繰り広げるレースを観て、アメリカズカップのレースはこういうものだというイメージを持っている人は、それを一旦完全に捨てたほうがよさそうです。
過去のアメリカズカップにノスタルジーを感じてしまう世代には、これから行なわれようとしているアメリカズカップは到底受け入れられるものではないかもしれません。しかしその一方で、これまでのアメリカズカップや一般のヨットレースをいうものをまったく知らない無垢なスポーツファンや子どもたちの目には、非常に興味をそそられる水上スポーツになる可能性を秘めているのではないか、とも思います。
これまでの優雅なアメリカズカップのレースの魅力が消え去ろうとしていることに後ろ髪を引かれつつも、アメリカズカップやセーリングの未来を考えると、そういう新しいグループや新しい世代に興味を持って受け入れられることのほうが、スポーツとしてのアメリカズカップやセーリングのより良い発展にとってとても重要なはずだ、という感想を、個人的にですが、持ちました。
【アジアから参加している2国の状況】
第34回アメリカズカップには、アジアから中国と韓国の2国がエントリーを表明し、AC45ワールドシリーズにも参戦しています。
プリマス大会では、韓国チームが大活躍しました。スキッパーを務めるオーストラリアのクリス・ドレイパーが、非常に優れたセーリングセンスを披露しています。49erで2度の世界タイトルを持ち、カタマランのエクストリーム40のサーキットでマルチハルのセンスを磨いた、弱冠33歳の若手セーラーです。しかし韓国チームには韓国人セーラーは乗っていません。
一方の中国は、オーストラリアのトーネードセーラーをスキッパーに据えていますが、トーネードで活躍したからといってAC45クラスで優れたセーリングができるわけではないことを、今のところ証明してしまっているだけのようです。中国チームには体格のいい中国人選手が一人乗っていますが、どうも本来のセーラーではなさそうです。
今回プリマスで、この2国のチーム運営を見ていて、筆者はちっともこの2国のことが羨ましくなくなってしまいました。
なぜかというと、それは、海上のレースでも陸上のオペレーションでも、この2つチームが、西洋人によって独占的に運営されていることが判明したからです。この2つのチームでAC45のセーリングの経験を積んでいっているのは、これら2つの国のセーラーではなく、外国人セーラーたちに過ぎません。
まだ、われわれ日本人セーラーはこの2つの国のセーラーに対して、AC45クラスの経験に関して後れを取っているわけではなさそうです。なんとか資金を集めて、海上のレースも陸上のオペレーションも日本人セーラーがリーダーシップを取る日本チームを誕生させたいものです。
【ワールドシリーズへの日本参加の可能性を求めて】
アメリカズカップ・イベントオーソリティーの代表者とのミーティングで明らかになったことは、2013年のサンフランシスコでの本予選と本戦に至る前の、レースフォーマットの詳細です。
以下に記す新しいレースフォーマットは、このレポートを書いている時点ではまだ公式発表もされておらず、アメリカズカップのオフィシャルサイトにも掲載されていません。
AC45クラスを使ったアメリカズカップ・ワールドシリーズ第2シーズンは、ワールドシリーズ2012-13と銘打たれて来年2012年の2月のニュージーランドかオーストラリア(最終調整中)での第1戦を皮切りに、2013年5月(イタリア・ナポリ)までの期間、全10戦あるいは11戦で開催されます。
現時点でも公式には2012年のワールドシリーズから投入されることになっているAC72クラスですが、実際には2013年の6月以降の、本予選(ルイヴィトンカップ)で初めて登場することになります。
AC45クラスがワールドシリーズの制式艇として2013年5月まで使われることになったことに伴い、AC45 によるユースアメリカズカップ構想は、早くともそれ以降に延期されました。
AC45でのワールドシリーズを2013年まで開催する目的のひとつは、スポンサー集めに苦労する各チームが、段階的に挑戦資金を獲得するのを可能にしたいからだと言います。AC45によるワールドシリーズに参加している間は、各チームは全長45フィートの艇で国際レースに参加する程度の資金でチームを運営していくことができるのです。
この程度の資金であれば、日本のヨット界にも可能性が出てくるのではないでしょうか。ただし、ワールドシリーズにエントリーするためには第34回アメリカズカップに参加することを確約した上でなければならない、という縛りがもちろん付帯しています。
ここでは誌面に制限があって詳しい報告ができませんでしたが、ヨット専門誌のKAZI誌12月号(11月5日発売)で詳細をレポートするページを割いていただきましたので、現在と今後のアメリカズカップ詳細について興味のある方は是非そちらをご覧下さい。
(JSAFアメリカズカップ委員会 西村一広)